のりさん牧師のブログ

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「契約があらわすキリスト」ロバートソン著

第10章 モーセ―律法の契約(アウトライン)
 
序論 モーセとの契約は、キリスト教界の歴史において議論を起こしてきた。
 古代マルキオン主義(旧約聖書の権威を否定)を受け継ぐものは現代にも息づいている。
→聖書解釈の歴史において息の長い問題のひとつ。
 
1.現代の聖書批評におけるモーセ契約の位置づけ
モーセ五書文書資料の起源と展開に関する歴史的批評的観点からの議論が続いているが、   
 近年の様式史批評研究によって、五書がモーセ時代のものであることが主張されるよう 
 になっている。この点について、二つの議論の展開を以下に示す。
 
 ①五書文書資料とヒッタイトの条約(五書文書資料とヒッタイトの宗主権条約との関係 
  を認める研究が増えている)
ヒッタイト帝国の古代文書の中から条約の文言が見つかっている
→その資料のうち重要なものはBC1400~BC1200まで遡る。
 《条約形式に用いられる必須要素》を確認することができる。
 a.征服側の君主たることを宣言する前文。
 b.宗主側のこれまでの慈悲行為に力点を置いた歴史的序文。
 c.こころからの忠誠を求め、特定の行動を定めるために、詳しく記された条文。
 d.臣下と宗主それぞれの神の神殿に、複製された条約文書を正式に保管するべきことを  
定めた条項。
 e.多くの場合無生物に対しておこなわれる証の要請。
 f.契約厳守を求め、のろいと祝福がもたらされることを述べる文。
 
モーセ契約と驚くほど似ている。(申命記の概略とヒッタイト条約形式の古典的かたち)
申命記全体が、モーセの時代には既に現在のかたちになっていたことを認めざるをえな
 い。
 
 ②五書資料と「申命記史家」(もうひとつの学派が、申命記が現在のかたちになった時代
  をほぼ千年ほど後代にしようと試みている)
マルティン・ノート→申命記からⅡ列王記までひとつのかたまりであり、現在のかた  
 ちになったのは、捕囚期のことであるとしている。
 
👉しかし、ヒッタイトの古典的契約形式が発見されたことで、現代の聖書学に、ひとつの 
 重要な流れが加わった。
 
2.モーセ契約の神学的な重要性
モーセ時代の神との関係は、律法関係ではなく契約的な関係の上に築かれている。
ヒッタイトの条約形式:法的条項が働く歴史的文脈が意識されていることが、モーセ時代を理解するうえで基礎的事象である。~律法はつねに契約の広範な概念に対して副次的なものである。
→律法の契約が啓示された時代の歴史的文脈を知ることで明確にされる。
アブラハム契約から出エジプト》既に契約関係に入れられていたイスラエル国家は、神によるエジプト捕囚からの解放という歴史的事実を通して、イスラエルの主としての神と出会い、契約が与えられた。
∴契約は律法に優先する上位概念である~外的な法的条項を定めることは、契約の結びつきを確かなものとする一つの手段である。
 
3.モーセ契約の特徴
  (民とかかわりあうために、神が取ったほかの手段とどのように異なっているか。)
               
モーセ契約は、神の意志を具体化したかたちにまとめたという点に特徴がある。
・物理的に書物としてはっきりと示された。
・外形的なかたちで、正式に秩序だてられまとめられた。
・聖書:出エジプト34:28、申命記4:13、9:9、11→石の板に刻まれた。
・「律法」とは、神の意志をまとめて外形化したもの。
→律法の契約と特徴づけられる。
   ↓
 「わざの契約」と混同してはならない。
「わざの契約」は神と罪のない人間との間で結ばれたもの。
「律法の契約」は罪あるひとに対して与えられたものであるので代理贖罪が欠かせな
い役割を担う。
・神はイスラエルアブラハム契約におけるめぐみの約束によってエジプトから贖い 
 出したからこそシナイに集めた。
→「律法の契約」はそれ以前の契約の延長上にあり、決して以前の契約を無効としない。
 ∴「律法の契約」は神が「あがないの契約」の豊かさを次第にあきらかにしていく中で紐 
 解かれた新しい段階を示すもの。
 
 ◇特徴を持つモーセ契約を、聖書神学の考え方のうちに位置づけるために見るべき三点。
(あがないの歴史における律法の契約の位置づけ)
 ①あがないの計画全体との有機的結びつき
 ②あがないの計画全体との発展的結びつき
 ③イエス・キリストのうちにある完成
 
①あがないの計画全体との有機的結びつき
有機的な関係
→それぞれが孤立し区画化された関係ではなく、いのちあふれる生きた相互関係。
・律法はあがないの歴史を通じてつねに存在していたことをまず認める必要がある。
 
a.モーセ以前の契約においても律法は重要である
・アダムはひとを救う子孫が生まれるという約束を、いさおなしく与えられたが、その子孫が来るまでは、いのちをつなぐため額に汗して働かなければならない(創世記3:19)
・ノアは恵みに満ちた契約の核心的な部分として、人を殺すものに対する処断について神のみこころの宣告を受け取った。(創世記9:6)
アブラハムに対する「約束の契約」では、父の家を出て、心を傾けて主に従い、主の前を歩かねばならなかった。~こののちの出来事もまた律法の契約が存在していたことを示している。→割礼が証印の定めとして、それを表している。
b.律法はモーセ以後の契約すべてにおいても重要である
イスラエルにおける恒久的な君主制は、ダビデ契約の制定によって最終的に実現する。
→「彼が不義を行ったときは、わたしは人の杖、人の子のむちをもって彼を懲らしめる」
 (Ⅱサムエル7:14)
●律法の契約の定めがキリスト者に意味を持ち続けていることを示す証拠
(1)キリスト者は、いくどとなく神の律法を守ることによって、完全な祝福の状態に至るべきと勧められる。
→「みことばを行う人になりなさい。…」(ヤコブ1:22)
(2)義をおこなうことなく生きるキリスト者は、神によって懲らしめを受ける。
→「主はその愛する者を訓練し、受け入れるすべての子に、むちを加えられるのだから」(ヘブル12:6)
(3)キリスト者は、おのれのなしたおこないに応じて裁かれる。
→救いはキリストがなしたわざへの信仰のみによって与えられるが、裁きは、人の働きに応じて行われる。
 
②あがないの計画全体との発展的結びつき
a.モーセ契約はそれまでのあらゆる契約以上に進展している
(1)モーセ契約は民を国家としてまとめている。
(2)モーセ契約は包括的である。
(3)モーセ契約はひとを謙遜にする。
(4)モーセ契約は予型として重要性を持っている。
b.モーセ契約はあとに続くものに比べれば不十分である
・新しい契約のもとでは、律法の働きかたの特徴はその内的な性格にある。
→啓示が進展することで信仰者の実体験も進展する。聖霊によって。
パウロは新約の信仰者たちに、モーセ契約制定にまつわる三つの象徴を解釈している。
(1)モーセの顔の輝きの象徴について。
 ・モーセの顔の輝きはあくまで消え去りつつある輝き。
(2)モーセの顔の輝きが失われていったことの象徴について。
 ・栄光が去りつつあることをイスラエルの民に見えないようにするためだという意見。
(3)モーセの顔のおおいについて。
 ・モーセの顔の栄光が消え去りつつあることを隠すものであり、栄光がまぶしすぎるか
 らではないという考え方を強力に支持していることがわかる。モーセ契約は栄光に満ち
 たものだったが「新しい契約」はさらに栄光に満ちている。(出エジプト34:29~35)
 
イエス・キリストのうちにある完成(キリストは律法を破棄するためではなく、成就するために来られた)(マタイ5:17)
a.山上の垂訓においてイエスが新しい律法を与えるものであるとあかす。
b.変貌の山においてイエスモーセよりも偉大な栄光の姿に変わった。
モーセは律法の仲介者であり、神の家のしもべとして働く。
→キリストは、律法のみなもとであり、子として神の家を治める。
c.キリストにあっては、律法による罪の告発の力はすべて失われた。
→キリストがすべての義を成就した~律法の契約はイエス・キリストのうちに完成した。